アリトホシクズ

 テヅカオタクの楽描きと語りとメモ
 http://xia.sub.jp/m/でも日々つぶやき中
<< 25回目の2月9日に寄せて | main | くだらなさの尊さあるいは手塚マンガ中国語版雑記 >>
スポンサーサイト
【-】  2016/12/02(Fri)

一定期間更新がないため広告を表示しています

嫉妬という名の才能あるいは鏡
テヅカごと  2013/04/12(Fri)03:04

件のバラエティ番組を録画で鑑賞。
http://tezukaosamu.net/jp/news/n_1132.html


いやもう、なんつーか、冒頭でいきなり『メトロポリス』の図版に『ロストワールド』のタイトルをかぶせるというところから始まり、最後の最後まで、ツッコミが追いつかない……状態をリアルで体感させられる内容でした。てれびこわい。
どうせなら、てれびこわいついでに、アッチョンブリケを子供時代に練習してたよーという微笑ましい話を披露してくれたアイドル青年に、それをやらせるくらい突っ走ってくれれば、ひな壇バラエティとしていっそ潔かったかもしれないよ。
後段に座ってた芸人さんが、全集で全部読んだみたいなことをさりげなく発言していたので、あの人にも詳しく語ってほしかったなあ。もっと映してほしかったなあ。手塚マンガ読んでるというだけで好感度が一気に上がっちゃう単純テヅカ脳です。すみません。

マンガ研究者さん方面からは、やっぱり早速、冷静なツッコミ記事が出てました。
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2013/04/post-2daf.html

番組名検索の上位にこの記事を出してくれているぐーぐる先生ありがとう。


しかし、「マンガに映画的手法を導入!」とか「どん底から『B・J』ヒットで奇跡の復活!」辺りは、テレビで手塚先生が取り上げられるときに、今までも割と定番のネタだったと思うんですが、「実はすごく嫉妬深くて子供っぽい人だったんだよ!」エピソードが、ゴールデンタイムの地上波であそこまで大きく取り上げられたのは、ちょっと珍しかったかな、と。

大友先生への「僕にも描けるんだよ」発言など、この手のいわゆる“マンガの神様の大人げない一面”系の話は、昔から手塚ファン、もしくは熱心なマンガファンの間では普通に知られていましたけど、やはり一般的には、手塚先生のパブリックイメージとずれがあるのか、余り大きくは取り上げられてこなかった記憶が。
それが2000年代前半ぐらいかな、たけくまメモなどのマンガ研究系の有名ブログさんを通じて、特に手塚ファンじゃないオタクにも広まっていき、2010年の『ゲゲゲの女房』放映時に、水木マンガと『どろろ』の関係がらみでツイッターで細切れにどんどん一般にも拡散していったものが、2011年からの『ブラックジャック創作秘話』連載関連で、ネット上ではすっかりネタとして定着したようなイメージです。
あくまでも、自分個人がネットの片隅からふわーっと眺めていての印象ですが。

なので、特に手塚治虫特番でもオタク向け番組でもディープな深夜番組でもない、至って普通のバラエティ番組で、この手の話がお茶の間に流れている状況には、ちょっとふしぎな感慨がじわじわ来ました。

とはいえ、手塚先生の“嫉妬”がらみの発言やエピソードは、言った背景とか、その文脈とか、細かいニュアンスまで含めてじゃないと、本当に誤解を招くものだと思うので、安易に断片だけを面白おかしくトリミングして、一人歩きさせないでほしいなあというのが正直なところなんですよね。切り取ったところだけなら、どうとでも取れちゃうし。
うーん、難しい。

 +

手塚先生の“嫉妬”エピソードといえば、大友先生への件と同じくらい有名だと思うのが、石ノ森章太郎先生との間の『ジュン』事件。
この件については、石ノ森先生ご自身が手塚先生の追悼マンガ『風のように』で描かれていますが、これを読むと余計に、「手塚先生が若き後輩の才能に嫉妬して大人気ない行動をしちゃいました」という単純な話として消費していいものかしらと思えるのです。

回想として描かれる、若き日のトキワ荘のおなじみの仲間たちとの語らい。
新しいマンガ表現とは何ぞやという議論の中で
「どーせ 神さまテヅカは越えられない!」
と言う仲間たちに対して
「いや 越えようとしなきゃ、どんな山だって越えられないよ!」
と力強く言う石ノ森先生が、悪戦苦闘の末にようやく到達した実験的手法で、手塚先生の『COM』に『ジュン』を連載し始める。

それでやっと認められたと喜んだのもつかの間、手塚先生に『ジュン』は「マンガじゃない」と批判されていると聞き、連載をやめると編集部に告げる石ノ森先生。
よりによって手塚先生にそう思われていたんじゃ、もうこれ以上は描けない、と。
しかし、そんな石ノ森先生のもとに、手塚先生が夜中に訪ねてくる。
石ノ森先生と向い合って座り、
「申し訳ないことをした……」
「なぜなのか自分でもわからない…」
「自分でもイヤになる」
と謝る手塚先生。
その瞬間、石ノ森先生の目には、そんな手塚先生の姿が自分自身の鏡像として映るのです。
刹那、己の姿をした手塚先生とお互いを見つめ合う石ノ森先生。

このシーンのハッとするような表現が、手塚先生の追悼マンガということを抜きにしても震えるんですよ……!描いた人と、描かれた人との思いが。

石ノ森先生が手塚先生に映し見た“自分自身”の鏡像は、もがき苦しみながら新しい表現手法を模索して切り開いてきた創作者としての同じ姿。
と同時に、そこには、新しいコマ割りを試みては編集に断られ、頭に来てやけくそになっては仲間たちに苦笑とともに呆れられ、表現の意義を熱く語っては空振りしつつと、ややコミカルに誇張してドタバタと描かれていた、『ジュン』連載前までの情熱が空回っている石ノ森青年の姿も含まれているわけでして。

このマンガ中の手塚先生が終始一貫顔を見せない背中だけの姿で描かれ、いかにも神格化された「神さまテヅカ」、もしくは「越えようとしなきゃ」と意識せざるを得ない大きな壁として表現されているように見えるので、ここで、同じ苦しみを持ち、悪戦苦闘し、そしてときには「自分でもイヤになる」くらいにカッコ悪い空回りもする、マンガという同じ地平に立った一人の人間へと、がらっと反転するこの一コマの鮮やかさに、余計に胸を突かれるのです。


手塚先生の死後間もなく描かれたマンガなので、全体的にウェットですし、脚色もあるかもしれませんが、ここに描かれているのは、越えられないだの、いや、越えなきゃだのと思わせる絶対的「神さま」への眼差しではなく、限りない感謝や尊崇と同時に、「時代と共に風のように吹き過ぎていく」と自ら語ったマンガという表現と戦い散っていった先輩への、親しみと共感とわずかに痛みを伴う憐憫を込めた、戦友としての眼差しだろうと思うのです。

 +

結局、手塚先生の“嫉妬”エピソードが面白おかしいネタとして語られているとき、ふと違和感を抱くのは、こういう視点がすっぽり欠けていることが多いからなのかなあ。

手塚先生が後輩に嫉妬していた話が、テレビで「ええーっ」と観客の驚き声SEが被せられるネタとして笑いとともに成立するのは、つまり、“漫画の神様手塚治虫”と“その他のマンガ家たち”という構図が大前提にあってこそなんですよね。
既に大成功して天才で売れっ子で「神さま」と言われたあの手塚先生が、まさか後輩たちに本気で嫉妬してたなんて!あり得んわー!というギャップゆえの笑い。

例えば『ゲゲゲの女房』が放映されていたころ、手塚先生が水木マンガブームに嫉妬して『どろろ』を描いたという話が、ときには面白おかしいネタとしてネットによく流れてましたけれど、逆に水木先生だって貸本時代に手塚先生の『複眼魔人』冒頭そっくりの構図や『鉄腕アトム/ミドロが沼の怪人』そっくりの怪物を描いているわけでして。また同時に、お互いそれはご自分が表現のためにインプットしていった多くの中の1つに過ぎないわけでして。
手塚先生から水木先生へ向けられた矢印だけをことさら取り出して、そこに“既に売れっ子だった手塚先生”対“貸本漫画からのし上がってきた水木先生”という、ある種の下克上的な面白さを強調して物語に仕立てちゃうのは、またちょっと違うんじゃないのかなーという気がもやもやしていたのでした。

互いに模倣し模倣され、羨望し羨望され、打ちのめし打ちのめされ、そして嫉妬し嫉妬されつつ、それぞれの点と点が無数の線で結ばれながら網目状に広がっていった戦後のマンガ家さんたちの世界において、手塚治虫は決して唯一絶対神ではなく、そこから放射状に伸びた線は太く多いけれど、やはり少し大きい一つの点に過ぎない。
いや、もちろんテヅカオタクの私にとっちゃ何者にも代えがたい唯一絶対的存在なんですけど、戦後マンガ史を客観的に見るならそれは100%の正解では決してないんですよね。

……まあ、手塚先生の場合はその“嫉妬”の仕方が極端というか真っ正直というか子供っぽいというか、行動へのあらわれ方が実に面白いので、ネタにしやすくて楽しいのはよく分かるんですけど、それを“漫画の神様手塚治虫”と“その他のマンガ家たち”という分かりやすい構図に落としこんだ物語として消費しちゃうのは、せっかく深くて面白い戦後マンガ史という豊かな海を泳いでいく中で、見逃して取りこぼす部分が多くてもったいないんじゃないのかなーと思ってしまうのです。


今日やっと届いた『ブラックジャック創作秘話』3巻(これから読む!ワクワク)にドラマ化という帯がついていましたが、これもまた、件のバラエティのように妙に分かりやすい物語として極端な再構築をされずに実写化されるといいなあと願います。
泥臭くて面倒くさくて暑苦しいドラマになりますようにー。

スポンサーサイト
【-】  2016/12/02(Fri)







ALL VIEW
script by web素材配布室